ヨーロッパの幼稚園関係者が日本のある幼稚園を訪れたときに次のような感想を述べたといいます。
「園庭遊具はたくさんありますが、室内におもちゃがありませんね」
確かにどちらかというと室内のおもちゃよりも園庭遊具が充実しているというスタイルが日本流のようです。私たちは園庭遊具も室内のおもちゃも両方大切だと思います。
大きな筋肉(園庭遊具)と小さな筋肉(手先の器用さ)
をバランスよく育みたい。私たちはそう考えます。手先の器用さの開発は「頭の賢さ」と密接に関連しています。手は第2の脳ともいわれますね。
室内で行う遊びには様々ありますが、私たちはわかりやすく図のようにしました。
そしてこの遊びの積み上げは前のページで紹介した「思考力獲得の道筋」のピラミッドにちょうど重なるのです。
@機能遊び
図では1歳くらいからとなっていますが、実際は赤ちゃんから様々な遊びがあります。手先の感覚や器用さの獲得が行われます。
A象徴遊び
2歳くらいからはじまります。代表的なものに「ごっこ遊び」があります。しかしすぐに「ごっこ遊び」はできません。その前段階として、「つもり・みたて遊び」を十分経験して、3歳くらいから「ごっこ遊び」が始まります。模倣や社会的役割の理解と獲得が行われます。
B構造遊び
3歳くらいからはじまる遊びで、代表的なものが「積み木遊び」。空間認知、創造性、仲間との協調性が育まれます。
Cルール遊び
4歳くらいからできるようになります。集団で行うカード遊びなどのルールのある遊び。規律を守れないと集団で遊べません。
「○○歳から」というのはあくまでも目安です。例えば3歳で幼稚園に入園したからといって、すぐに積み木遊びができるわけではありません。手先の器用さが十分開発されていないと積み木が積めないわけです。その場合は少し戻って「機能遊び」をたっぷり行うことが大事です。発達段階に合わせて遊びも、おもちゃも変わるのです。
逆にいえば発達段階に合わせて、変わっていかなければならないのですね。こうして「遊び」は「教育」になるのです。
では4つの遊びをもう少し掘り下げてみましょう。まずは「@機能遊び」。
※1歳から、とありますが私たちの保育園(夏見台保育園)では、赤ちゃんから様々な機能遊びをやります。
赤ちゃんが誕生して1年くらい経つと2つの劇的なことが起こります。それは「話すこと」と「歩くこと」。二足歩行は両手を自由にし、さらに親指が掌から分離することで道具を扱えるようになりました。つまり「歩くこと」で手先が器用になったわけです。
「ことば」と「手先の器用さ」
この2つが我々人類と動物とを分ける大きな違いになります。知能とはまさに「ことば」と「手先」にあります。
穴にひもを通すことやビンのふたを回して閉めること。大人からみればなんと言うこともないことですが、子どもはこれが楽しいのです。くり返しくり返し行います。やがて習熟すると飽きてきますね。そのときは、より穴の小さな容器を与えたり、より細いひもを与えます。難易度を上げます。子どもたちは夢中でまたくり返します。
モノを「移す」という行為を子どもは好んで行います。最初は散らかしてばかりなので、大人から見ると「ああ、また!」と困ってしまいます。しかし、これは子どもなりの学習です。
「数」の概念を学ぶ前に「量」の概念をつかむ必要があります。
それが発達です。おおざっぱな「大きい・小さい」「多い・少ない」という感覚をこうした遊びをくり返すことで獲得していきます。そのときに必要なおもちゃの環境を適時、適宜作るわけです。
続いて「A象徴遊び(再現遊び)」。
いわゆる「ごっこ遊び」ですが、幼児教育的には模倣を通じた社会的役割の獲得ということになります。まずは身近なお母さんやお父さんを真似る。バスの運転手さんや先生を真似る。
発達段階に合わせた環境を整えておけば、遊びはどんどん発展していきます。写真にあるようなハンドルのおもちゃがあれば、家族揃って外食へ行こう、という遊びとなります。レストランにはコックさんがいて腕を振るいます。前に触れた「似たものを見つける力」を育む、大切な遊びです。
ところで、子どもたちを見守る私たちの視点は次の2つが大きなポイントとなります。
1.子どもが遊びに「集中」しているか?
2.子どもの遊びが「発展」しているか?
保育者は子どもの遊びにできるだけ介入しません。もちろん、きっかけ遊びとして最初は先生がお手本を見せます。そうして子どもたちを巻き込み遊びを伝え、少しずつ遊びの輪から離れていきます。遠くから見守ります。
子どもが遊びに集中できていないとすぐに目に付きます。
どうして集中できないのか?発達段階に合っていないのかもしれない。あるいは発達が早いため、今の遊びでは退屈なのかもしれない。
そうしておもちゃや遊びを適宜切り替えていきます。ただ子どもを自由に遊ばせているわけではないのです。逆に、適当な環境を用意すれば、子どもの遊びはどんどん発展していきます。次の「構造遊び」がいい例です。
「B構造遊び」。
積み木遊び以外に、「汽車遊び」なども構造遊びの1つになります。自由にレールを敷いて広く大きく遊びが発展していきます。ですが例えば一人っ子の場合ですと、集団に入った当初は小さな輪のレールを作って遊んでいます。やがてみんなで協力して、大きなレールを敷くようになります。子どもの発達はおもちゃの形に表現されます。
積み木をあわせて街づくり。十分な分量の積み木さえあれば、子どもの作品はどんどん発展していきます。作品の大きさに合わせて、どうしても複数での共同作業になります。自分勝手な行動をしていると、友だちが遊んでくれません。こうした人間関係が学べるのもまた、遊びの教育効果といえましょう。
最後は「Cルール遊び」。
集団における規律の獲得です。カードゲームが代表的なものですが、まずルールを理解できなければ遊べません。その上でルールを守ること。最終的には、子どもたち同士でルール作ることができるといいですね。こうした遊びをのびのびとできるように導いていきたいと考えています。
以下のページもどうぞ
1.「9歳の壁」とは
2.思考力獲得の道すじ
3.子どもを賢くする4つの遊び
4.「ことば」と「遊び」の関係
5.手先と言葉と脳の関係
6.「絵本」は「生きる力」を育む!
7.「模倣」が意味するもの
8.ヨーロッパの幼児教育の歴史