よく「手はもうひとつの脳である」とか「手は見える脳である」ということがいわれます。手と脳の関係とはいったい何なのか考えてみましょう。
次の図は脳の断面図です。脳の中央に大きな溝があります。それを「中心溝」といいます。その中心溝に沿ってひらがなの「の」を書いてみます。その前と後の部分で脳の機能はざっくりと2つに分かれるのです。
「感じる脳」(脳の後の部分)では、目から入ってきた情報、耳から得た情報、手などの皮膚感覚を記憶します。その記憶した情報を「動かす脳」(脳の前の部分)では、1つの意志を持って引っ張り出し、整理し、行動への指令を出します。この両者のスムースな連携こそ、脳が「賢く」機能している状態といえましょう。これが、脳を全的に使うことです。
脳の前の方「動かす脳」の中で、実際に私たちの身体をコントロールしているのは
「運動野(うんどうや)」です。
この運動野発見のきっかけは今から約70年前。カナダの医師ペンフィールドが、てんかん患者の開頭手術を行った際にわかりました。脳のある部位に電気を流すと、身体の特定箇所が反応したのです。ペンフィールドは丹念に調べていきました。できあがった「脳地図」。特に手と口や舌の部分が非常に大きかったのです。その比率をもとに作った人形(ホムンクルスという)が下の図です。ちょっとグロテスクですが…
胴体に比べて、手(指)と口・舌が異様に大きくなっています。手や舌に関係した神経細胞の数が非常に多いことがわかります。脳の発達は、手を動かす機能と話す機能と密接に関係しているのです。手や口・舌を使えば使うほど、脳も働くわけです。これが他の動物と人間の大きな違いです。
整理しましょう。赤ちゃんが誕生して1年くらい経つと2つの劇的なことが起こります。それは「話すこと」と「歩くこと」。二足歩行は両手を自由にし、さらに親指が掌から分離することで道具を扱えるようになりました。つまり「歩くこと」で手先が器用になったわけです。手の自由な動きは「身振り・手振り」を豊かにし、コミュニケーションが行われるようになりました。そして人類は言語を持つようになったといわれています。
「手先の器用さ」と「ことば」。そして「思考」。この3つが我々人類と動物とを分ける大きな違いになります。知能とはまさに「ことば」と「手先」にあるのです。
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