子どもの発達に関する相談の中で最も多いのが「ことば」に関するものといわれます。そしてこの「ことば」の発達と遊び・おもちゃとは密接な関係があるのです。心理学者のルリアによると、「ことば」には3つの機能があります。
1.伝達
2.思考
3.行動のコントロール
改めてこうして並べてみると「なるほど!」と思います。「ことば」とはコミュニケーションの道具としてだけではなく、「考えたり」「行動したり・制御したり」といった働きもします。最近は単なる返事としてしか「ことば」を使わない若者も増えていますが…
「ことばで思考しない」
「ことばで行動が制御できない」
それは下のグラフのように、小学生の暴力事件の激増にも現れています(文科省H19発表)。
中学生は20%増、高校生は5%増なので、小学生の37%はかなり突出しています。「目を離すとすぐにけんかになる」ため、おちおち職員室で休憩も取れないと嘆く先生たちの姿が報道されました。これは一体どうしたことなのでしょうか?各新聞には、小学校の先生のコメントが多数紹介されていました。
「ちょっとした口論で顔を殴ってしまう」
「いきなり顔を、なんて昔はあまり…」
「言葉よりも先に手や足が出てしまう」
その原因を次のようにコメントする先生がいました。
言葉でコミュニケーションをとる力が不足していて、すぐに手が出てしまうようだ…
今後の対策としては、気持ちの言語化やコミュニケーション能力の向上、感情を言葉で表現する工夫をしましょう、といった対策が打ち出されるものと推測できます。確かにそうした観点も見逃せないでしょう。
しかし果たして、言葉の使い方が下手あるいは不十分だから口より先に手が出てしまうのでしょうか?もしかしたら子どもたちは発達段階における適当な時期に、適当な「遊び」を十分してこなかったために今のような状況になったのかもしれません。
スイスのピアジェは「TIME誌が選ぶ20世紀の100人」にも選ばれた大変著名な心理学者です。ピアジェは子どもの行動を綿密に観察し続け、さまざまな提言を行いました。ピアジェは、子どもの知的発達段階を4つに分けました。そのうち0歳から2歳の最初の時期のことを、
『感覚運動操作期』
と命名しました。大変有名な言葉です。この年齢の子どもは言語を使って思考ができません。何でもいじってみて、触ってみてという行為を繰り返しながら思考している、というのです。
2歳くらいまでは言語を使って思考できない。手や身体を使って思考している
というわけです。何か突起物があれば押してみる。穴があれば指を入れてみる。考えてから操作するのではなく、操作自体が思考活動そのものなのです。
0歳〜2歳の時期に「機能遊び」として手指を使った活動・遊びをたっぷりさせてあげることが、後の言葉の発達、さらには思考の発達に大いに影響するというわけです。しかしここで1つの疑問が起こります。
もしピアジェの言う「感覚運動操作期」に手先を使うことをやっていないとしたら?
その前に「脳科学」の観点から考えてみましょう。
以下のページもどうぞ
1.「9歳の壁」とは
2.思考力獲得の道すじ
3.子どもを賢くする4つの遊び
4.「ことば」と「遊び」の関係
5.手先と言葉と脳の関係
6.「絵本」は「生きる力」を育む!
7.「模倣」が意味するもの
8.ヨーロッパの幼児教育の歴史