ところで、子どもたちはひたむきに同じ遊びをくり返します。特に「機能遊び」がそうです。これをピアジェは
「自己模倣」
といいました。自分で自分の行為を真似ているのだ、と。大変興味深い指摘です。そういった視点で見ると、子どもたちが行っている発達段階に合わせた遊びとは、まさに模倣のステップであるな、と思います。
模倣する力とは生きる力の1つです。模倣できないと人間は成長していけません。集団の中で生きてはいけないのです。子どもたちはこうした能力を遊びの中から学びます。
それではここで、夏見台幼稚園・保育園の4つの室内遊びと「模倣する力の獲得」のステップをまとめてみましょう。
「機能遊び」はまさにピアジェのいう「自己模倣」です。続いての「象徴遊び」では他人の模倣を行います。先生のまねをします。お母さんのまねをします。さらに「構造遊び」では具体的な「モノ」の構造をまねます。そして最後の「ルール遊び」では、「ルール」という、目には見えない抽象的なシンボルをまねるわけです。学びは「簡単なものから難解なものへ」「近いところから遠くへ」と広がっていきます。
自分の模倣 → 他人の模倣 → 具体物の模倣 → 抽象物の模倣
まさに「2.思考力獲得の道すじ」と一致します。身体(人)→モノ→シンボル。以上のことを子どもたちは、発達段階に合った遊びしながら自然と学ぶのです。
考えてみれば私たち大人が送っている社会生活とは「集団の模倣」であり、「ルールの模倣」といえます。正社員が会社の決まりを守れなかったら、その会社にはいられません。
もちろん模倣だけではいけません。しかし創造性とは模倣の上に成り立つものです。制約があるからこそ、自由な発想も生まれるのです。
模倣についてもうひとつ付け加えたいことがあります。私はあるとき「ごっこ遊び」をしている子どもの様子を観察していました。お母さん役をやっているその子どもを見ていると、自分のことを盛んに「おかあさん、おかあさん」と自称しています。
「おかあさんはご飯の準備するからね!」
「おかあさんはお買い物いくね!」
この「オ・カ・ア・サ・ン」と発音するときの子どもの表情はなにやら得意げに見えました。ふだんは「ママ!ママ!」と甘えているのに…。つまり、その遊びの瞬間、その子どもは「仮面」を被ります。役割の理解です。
考えてみると私たち大人も状況に応じて様々な仮面(役割)を被っています。家庭人としての仮面、社会人としての仮面、役職としての仮面、地域社会での仮面…。
仮面の下では「本当はやりたくないなあ〜」と思っていても仮面を被るとできてしまう。こうした「公と私」の切り替えができることを「大人になる」というわけです。子どもたち同士の遊びを通して少しずつ成長していくのですね。
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1.「9歳の壁」とは
2.思考力獲得の道すじ
3.子どもを賢くする4つの遊び
4.「ことば」と「遊び」の関係
5.手先と言葉と脳の関係
6.「絵本」は「生きる力」を育む!
7.「模倣」が意味するもの
8.ヨーロッパの幼児教育の歴史