私たちの園では子どもの「自律性」の芽を育むことを大切に考えています。南部名誉園長はそれを車のブレーキに例えます。
「いつも大人がブレーキを踏んでいてあげたらどうなるでしょうか。子どもが大きくなって、いざ、自分でコントロールしなければならないときに…その車は暴走してしまいます。自分でブレーキを調整することを学ばねばならないのです」
子どもたちを待ち受ける3つの選択。
1.学校を選ぶ
2.職業を選ぶ
3.配偶者を選ぶ
こうした選択を、他人任せ(=他律)にせず「自分で決めること」は大切です。「自分自身で選んだのだ!」という自覚です。自分の人生に責任を持つとはそういう意味なのです。
※ところでこの「自律性」は「非認知能力」の代表的なものとして、今世界の教育界で注目されています。「非認知能力」とは「認知能力(つまり知識偏重)」に対する言葉で、ごく簡単に言うと「心が大事」ということです。それをノーベル経済学賞をとったヘックマン教授が主張したことで、先進国各国では、幼児期から「非認知能力」を育むことに力を入れ始めています。
では私たちの「心」とはどのような手順を踏んで育まれるのでしょうか?心理学者エリクソンのライフサイクル理論を紹介します。
心の成長とはその時その時の「発達課題」の積み上げである、といわれます。赤ちゃんの時期は「基本的信頼感」。まずは安心を与えることです。その安心感を土台として、幼児期(前期)には 「自律性」 を育みます。
自分でやってみたい → でもできない → それでもやってみたい…こうしたくり返しの中から、トイレ・トレーニングなどで
(自分でできた!)
という経験を積みます。できることが少しずつ広がり、自信がでてきます。「自主性」を育むときです。
幼児期には「自律性・自主性」といった個の芽生えを大切にしたいものです。その次の段階で、小学校では「勤勉性」を育むのです。
ところで、幼児教育の現場では「一斉保育」が主流です。学校でのお勉強に備えて、いち早く「勤勉性」を育もうとします。
しかし心の発達には順序があります。「個から集団へ」という流れです。私たちの園では、発達段階に合わせた遊び・玩具の環境を整え、個々への対応を中心とした保育を行います。これを「設定保育」といいます。一斉保育も行いますが、子どもの「自律性・自主性」を育むには、個への対応や小集団での保育の方がより望ましいと考えています。私は時々、卒園児の保護者から小学校でのようすを伺います。園での教育の成果はどうなのかと。すると、
「夏見台の子はやるべきときに集中できる」
といったことをよく耳にします。嬉しい限りです。本当に満足した子どもだけが意欲的になれます。主体的に遊び込むことで、健康的にエネルギーが発散され、心が安定します。これこそ、最高の勉強へのレディネス(準備性)なのです。やがて子どもは成長し社会人になります。自律性とは「習慣を作る力」と言い換えることもできます。
有名な経営学者のドラッカーは「知能や勤勉さ、想像力や知識がいかに優れようと、習慣的な力 に欠ける人は成果を上げることができない」と著書に書いています。自らを律し「習慣を作る力」は大切な社会的スキルでもあるのです。
以下に続きます。
1.手で考える力
2.似たものを見つける力(イメージする力)
3.仲直りできる力
4.気分を言語化できる力
5.ごほうびを先延ばしできる力
6.自分で決める力(自律性)
7.人を尊敬できる力
8.人に共感できる力
9.楽観できる力
10.自分にYES!と言える力(自己肯定感を育むほめ方)