「人に共感できる力」もまた大切な社会的スキルです。いじめ問題への対策でもあります。「弱いものいじめをしない」「弱い人を守ってあげる」。そのために「思いやり」の気持ちを育みたいものです。
私たちの園は異年齢クラス編成になっているので、年長が年少の面倒を見る、ということが日常的に行われています。
この4月に新しい子どもたちを迎え、各教室でさまざまなドラマがありました。集団になじめず泣く子に、年長さんがやさしく寄り添う姿。
「このくらいなら大丈夫?」と一人ひとりに確認して回る年長さんの姿。相手の目をしっかり見て、背をかがめ、お皿の角度も相手が見えやすいようにふるまっています。かつて自分が先輩から同じようにしてくれたことを、今度は自分が相手にやってあげるわけです。
「ごはん、これくらいでいい?」とひざを折って聞いています。先生が聞くとつい甘えたくもなりますが、そこは子どもの世界。先輩から聞かれるとつい「うん…」とうなづく。一度YESといったからには、責任を持って食べる。そんな所もありましょう。
上の写真で注目いただきたいのは、そうしたやりとりを、じっと見ている右端のお子さんの様子です。見てまねる、覚える。そして自分もやってあげる、やってあげたくなる。こうしたサイクルが、私たちの園にはあります。
以上のことは、言葉で教育するのは難しいものです。「小さい子にはやさしくしなさい」とスローガンを立てても、強制しては身につきません。形だけです。自分が体験し、その様子を観察し、何年か後で、実際にその場に自分が立ったとき…。自然と体が反応してしまう。これが本当の「学び」ではないでしょうか。
お年寄りに席を譲る青年とその様子をそばで見ていた主婦。人の役に立った青年は「誇り」を感じ、お年寄りは「感謝」をする。見ていた主婦は(気持ちのいいことね…)と「鼓舞」される。こうした「正の循環」が私たちの社会を支えています。そしてやや大げさな話かもしれませんが異年齢の集団の中に、その原初体験があるのです。
子どもの心を育む方法として「異年齢保育」は大変好ましいものであると、私たちは考えています。さらにこれは「いじめ」予防にもつながります。
文科省のページには、具体的ないじめ対策に成功した学校の取り組みが掲載されていました。ある荒れた中学校の改善例です。キーワードは 「異年齢活動」
でした。
この中学校は不登校やいじめなどの問題行動に苦しんできました。しかし下のグラフのように平成22年の6月のいじめ件数が激減しています。いったい、何があったのでしょうか?
答えは中学校入学前にありました。中1の最初から問題があるということは、小学校の段階ですでに問題があるはずです。そこで、校区にある2つの小学校と連携したのです。
その小学校では、小6と小1の異年齢活動を計画的に行ったそうです。給食、清掃、運動会、読み聞かせ、ほかさまざまイベント。すると6年生の行動が変化しました。平成20年から始まった異年齢活動の試みは3年目に花が咲き、平成22年のいじめ激減につながった、ということです。
地域にガキ大将がいなくなり、一人っ子も増えました。さまざまな年齢が入り混じった集団で遊ぶことで、子どもたちは多くの体験をしました。大人からいわれてやるのではなく、自分たちがルールを作り、役割をこなす。そこで責任感や自主性、小さな子ども(弱きもの)への思いやりを学びました。当然、けんかもあります。しかしけんかを乗り越えることで「仲直りする力」が身につくのです。
夏見台幼稚園・保育園の取り組みは間違っていなかった、と私は思いました。こうした研究は全国の学校に周知されています。最近は異年齢活動を行う小学校も増えているようです。幼児教育の現場にも、どんどん異年齢活動が広まればいいと願います。
以下に続きます。
1.手で考える力
2.似たものを見つける力(イメージする力)
3.仲直りできる力
4.気分を言語化できる力
5.ごほうびを先延ばしできる力
6.自分で決める力(自律性)
7.人を尊敬できる力
8.人に共感できる力
9.楽観できる力
10.自分にYES!と言える力(自己肯定感を育むほめ方)