東北大学名誉教授の近藤正二先生は、日本の長寿村・短命村の食事を研究しました。昭和10年から46年まで、北海道から沖縄の全国990町村を食べ歩きました。まだ交通が十分でなかった時代です。
当時の日本は脳卒中で亡くなる人が多く、その要因を調べることが目的でした。最初は「遺伝・気候・大酒・重労働」などが怪しい、と考えていました。しかし現地の人と膝を突き合わせ、生活習慣を知るにつれ「食生活」こそが大きな要因であることを確信します。
結論です。長寿村では雑穀・緑黄野菜・海藻・大豆などの 「食物繊維」 を豊富にとっていました。加えて「重労働」(自給自足の生活)。一方の短命村では精製された白米・魚の多食、野菜不足が共通点です。ここでいう「魚」とは「大型魚の切り身」のことで、長寿村では小魚を頭から丸ごと食べていました。
近藤先生は 「米どころに長命なし」 といって批判をあびます。野菜や大豆をとらずに「米と魚」ばかり大食する、この2つは日本人の長生きの妨げをしてきた「かたき」とまで書いています。40年近くにもわたり、自分の足で村々を訪ね歩いたフィールドワークの集大成でした。
その近藤先生が訪ね歩いた長寿村を再訪したのが、理化学研究所の辨野義己先生です。辨野先生は腸内細菌の世界的権威。なんと、長寿村のご老人の便を集めて回ったのです!
その結果は科学で裏付けられました。元気なお年寄りの便には「ビフィズス菌」などの善玉菌があふれていたのです。辨野先生はまた次のようなことも書いています。
「腸内細菌も老化する(50代が境界線)」 加齢ともに、善玉菌の数は減少します。その境界が50代。中年にさしかかったら腸に優しい食生活に変えるべきでしょう。
「長寿村に『糖質制限』はない(ただし食物繊維たっぷり)」 今はやりの糖質制限。確かに短期間で減量します。しかし長寿のお年寄りたちは例外なく、食物繊維たっぷりの炭水化物を食べています。糖質制限の長期的な効果はまだわかっていないのです。
「海藻を食べる意味(日本人のプレビウス菌にだけ海藻を分解する遺伝子があった!)」 プレビウス菌はヨーロッパの人の腸内にもあるありふれた菌です。しかし日本人の腸にいるプレビウス菌だけが、海藻を分解する酵素をもっていることがわかりました。
海藻は、前述した近藤先生の研究からわかるとおり、長寿村の常備食です。海に囲まれ、大昔から海藻を食べてきた日本人ならではのものです。「毎日少しでも海藻を食べるべき」と近藤先生は主張しています。
しかしよい話ばかりではありません。『短命化が始まった』(農文協文化部著)によると、「日本一の長寿村」といわれた山梨県の棡原(ゆずりはら)で「逆さ仏現象」が起きました。ご老人は長寿なのに、次の世代の中高年がバタバタと病死してしまうのです。
以下に続きます。
はじめに
1.血糖値スパイク
2.白砂糖の害
3.ペットボトルか?水筒か?
4.慢性炎症の時代
5.私自身の話
6.腸のバリア機能
7.日本の長寿村・短命村の食事
8.「食の主体性」とは?
9.コオロギはなぜ自殺するのか?
10.我々は操られているのか?
11.腸内細菌と脳の関係
12.あなたのチワワにエサを!
13.園での取り組み
おわりに